ぎゅっと詰まった編み目、ビビッドな色合いに、ドット絵のような動物や植物のモチーフ。プレイフルでどこかノスタルジーを感じさせる子供用のセーターは、ニット作家 Seira Hobbsによるものだ。ブランド名である61 Acorns(シックスティワン エーコーンズ)は、イギリスにいる義理のお祖母さんの、一軒家についている屋号から取った。Seiraにとって、小さい頃から編み物は身近な存在だった。母や祖母が編み物を嗜む人で、買ってもらった子供用の編み機で自分も色々なものを作った。それでも、編み物は趣味の一つでしかなかった。転機が訪れたのは、イギリスから帰国し第一子を妊娠した時。何かしていないと落ち着かない性分もあって、冬生まれの子供にニットの洋服を編もうと思った。娘の成長に合わせて、一年に一枚編むことを自分に課して、作り続けるようになった。娘の成長と共に少しずつ増えていくセーター。サイズアウトしたものも、「あの時、娘はこのくらいのサイズ感だったな」とか、「あの年はこのニットを編んでたな」と、記録と記憶と共に残っていくのがいいと、Seiraはいう。徐々に友人やinstagramを見た人から販売の問い合わせが入るようになった。数年で、オンライン販売やポップアップを開けば瞬く間に売れてしまう、人気ブランドへと成長した。
61 Acorns
母から子へ、記憶を編むセーター

記録と記憶を編む

イギリスが教えてくれた、作るという喜び
学生時代に一人旅で訪れたイギリスが忘れられず、24歳の時、思い切って仕事も辞めて単身渡英した。ロンドンのお花屋さんで働きたい、という夢があり、経験も語学力もなかったが履歴書を配り歩いた。やっとの思いで花屋の就職が決まり、朝から晩まで掛け持ちで働いた。オープンエアな花屋はひっきりなしにお客が訪れ、その場で、オーダーを受けた花束を作り続ける日々。振り返れば、色とりどりの花の組み合わせを即興で考え作り続けた経験が、61 Acornsのニットの配色やデザインに繋がっているのかもしれない、Seiraはいう。イギリスはものづくりに対する理解も日本に比べて浸透しているという。ハンドメイドのものや、それを作っている人たちに対してのリスペクトがある人が多い。Seiraの夫も2Dアニメーターとして活動しており、時間と労力を費やしてものを作ることが、彼女にとっては当たり前であり、身近なことだった。なんでも簡単に手に入る時代に、手間暇かけてものを作ることの尊さや大切さ、イギリスで培ったそうした価値観は、彼女がその後、61 Acornsをスタートし、ものづくりで生きていく基盤となっている。

時代が変わっても変わらないもの
ニットのアイデアソースは、まずは娘に着せたいもの。娘に似合いそうな色だったり、どんなスタイル(コーディネート)にしようかなというところから、着想する。ニットの配色やパターンは、昔のものからインスピレーションをもらうことも多い。「ウォレスとグルミット」、「ひつじのショーン」、「パンダコパンダ」といった古いアニメーションが大好きで、何度も繰り返し観た。古着やフランス映画も好きだ。61 Acornsの作品が、どこか懐かしく、ビンテージニットのような、ノスタルジーを感じさせるのは、そんな古いものへの愛着から来ているのかもしれない。お絵描きが大好きな娘が描く、自由で想像力に溢れる絵も、大きなインスピレーションの源だ。 娘が生まれて、ニットを編んでいる今、洋服に対してのある願いがある。子供服は、すぐにサイズアウトしたり汚れたりするから、安くて手軽なものを選びがちだ。それでも大量生産されているものではなく、一つ一つちゃんと作られているものを子供には着せたいと思う。そして願わくは、その服がさらに次の世代へと受け継がれていく、そんなふうになったらいい。その言葉を映すように、Seiraの作るニットは一過性の流行や雰囲気に流されない、一時で消費されない普遍性がある。子供が着れなくなっても、親と子の記憶を媒介してくれるニット。そしていつか、また新しい思い出に寄り添う、そんな時代を超えて大切にされるものを、作りたいと願っている。

- 1994
- 東京都生まれ
- 2014
- 国際文化 渋谷校卒業
- 2016
- 大阪に移る
アイリストとしてLIMで働く
- 2018
- イギリス ロンドンに渡英
カフェ、フローリストとして働く
- 2020
- 帰国
第一子妊娠を機に編み物や子供服をつくり始める
出産を経て現在61 Acornsとして活動